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2014/12/15

あらためてアルスラーンが好きだなあと思ったという話をします #YOME_LOVE

今年も好きなキャラ #YOME_LOVE Advent Calendar 2014に参加させていただくことにしました。
(去年の記事:『キングダム』の嬴政様について語るよ  #YOME_LOVE

今年は、ある意味初心に帰ろうと思います。
コミカライズ(2回目/しかも荒川弘先生)もあったし、アニメ化の発表もあった。20年ちょいファンやってきて、こんなに大きく取り上げられるの初めてじゃないか!?(前の映画化のときはまだアル戦の存在を知らなかった)

というわけで、我らが主人公アルスラーンについて、あらためて語りたいと思います!
よろしくお願いします!!

※原作第7作目『王都奪還』までのエピソードに触れる予定です。
 漫画版やアニメ化情報などでこの原作の存在を知って、これから読んでみようかと思っている方の楽しみを削がないよう配慮したいとは思いますが、それでもネタバレが多少ありますのでご了承ください。



【アルスラーン戦記とは】

 猛勇なる騎士集団を誇り、不敗の国王アンドラゴラス3世が君臨するパルス王国。だが宗教国家ルシタニアの侵攻により、強国パルスは、たった一日で滅亡してしまう。初陣の王太子アルスラーンは、死屍累々の戦場から、辛くも脱出、「戦士のなかの戦士(マルダーンフ・マルダーン)」ダリューンや策士ナルサスといったわずかな強者たちと故国奪還へ旅立つが……!
 (光文社カッパノベルズ版『王都炎上/王子二人』裏表紙より引用)


 原作は田中芳樹氏。あらすじを書き出してみると、なんというかこう、古典的なファンタジーの香りがしますね。まあ何といっても角川文庫版の初版が1986年ですから、日本における異世界ファンタジーの古典と言えば古典なわけです。
(参考:ライトノベルの土壌が作られた時代 : ライトノベルの歴史を本気でまとめてみた!70年代から2014まで【オススメ・決定版】 - NAVER まとめ
 超有名作品ですし、今更わたしなんぞが長々と語る必要もないんですが、必要がなくても語りたい!好きだから!そういうわけで書きました!

 第1巻の初版から28年(2014年現在)、シリーズ第14作目『天鳴地動』までが刊行されております。
 なお未完です。この数年以内に完結の予定とのことですが果たして……?

 以前にもアニメ化(劇場版とOVAのシリーズ)・漫画化(中村地里氏)されており、また原作自体が角川文庫→カッパノベルズ→光文社文庫とレーベル変更を経ていて、そのたびに別のイラストレーターさんによって作画されていますので、キャラクターのビジュアルは数種類あるのですが、小説ですので、今回は画像引用なしで挑んでみたいと思います。字ばっかりの記事になりますが、よろしければお付き合いください。

【アルスラーン戦記と私】
 以下は思い出話なので、読み飛ばしても構いません。
 せっかくなので、アル戦と私の20年の歴史でも大まかに綴ってみます。わーいアルスラーンの人生より長ーい!

 私が初めて『アルスラーン戦記』(以下「アル戦」とします)を読んだのは確か中学2年の頃、もう20年ほど前になります。その当時は角川文庫版で第9巻『旌旗流転』が刊行されて数年経った頃でした。確か、クラスの友達に『創竜伝』を貸してもらって、それが面白くて出ていた分あっという間に読み終えてしまったので、「同じ作家さんの本もっと読んでみたいなー」と思って手に取ったのを覚えています。
 こちらにもすぐに夢中になって、9巻まであっという間に読み終えてしまい、それからしばらくはどこに行くにも、旅行先にも持って行って何度も読み返していました。

 しかし、「9巻完結なんだな」と思って読み始めたら、全然完結してなかったし、それから10巻『妖雲群行』が出るまでに6年ほどかかりました(大学生になっていました)。さらに数年後、11巻『魔軍襲来』が出るにあたって角川文庫からカッパノベルズへのレーベル変更。このとき、既刊分もカッパノベルズから再版されたので、こちらも買いそろえました。
 それから続刊までにまた数年、で、次の巻が出たと思ったらまた数年……というサイクルを繰り返しながら今に至っています。
 読み始めたころ、既刊分を一気に読んでのめり込んだものの、そこから数年空くとなると、まあ普通に他の作品に夢中になったり、あるいはなんか生活に追われたりしながらも、続刊が出るとなるとソワソワ落ち着かないし、そこで前の巻を読み返してまた夢中になる、とまあそんな感じです。



【アルスラーンとは】
 さて、我らが主人公アルスラーンです。国王の一人息子で、王太子、すなわち王位継承者。物語開始時14歳。
 初陣でいきなり負け戦、仲間の数一桁(総勢6名)からの国家奪還ミッションを課せられたアルスラーンはどんな少年なのか。


1.大樹はゆっくり育つもの
 実は、小説を読み進めていて、最初なかなか魅力が掴みづらい部分があるのが、この主人公アルスラーンです。
 まあ私は初めて読んだときからアルスラーン推しだったんですけど(ドヤ顔)、当時ファンロードなどで特集が組まれた際、イラストの数などを見ても、アルスラーンが特に好き、という人はそんなに多くありませんでした。

 小説を読まれた方の多くは、こう思ったのではないでしょうか。
「『アルスラーン戦記』って名前付いてるけど、アルスラーンの影薄くね?

 田中芳樹氏の代表作『銀河英雄伝説』の二人の主人公、ラインハルトとヤンはそれぞれ卓越した戦争の才能を持ち、「常勝の天才」「不敗の魔術師」という二つ名を持っていますし、また性格にも明確な個性があります。田中芳樹氏の小説は、基本的に「強い個性と行動力を持つ主人公が能動的に物語を動かす」という傾向があるような感じがします。(創竜伝などは「巻き込まれ型」ではありますが)

 一方アルスラーンはどうかというと、実は序盤の時点ではっきりと見える「明確な個性」「卓越した才能」というのはありません。初陣で敵の刃をからくも逃れる場面があるものの、そのあとはずっとアル戦界最強の騎士ダリューンと、最高の頭脳を誇るナルサス、その他多くのめっちゃ強い(個性も強い)仲間たちのサポートを受けます。
 戦場を疾駆し、神がかった剣術で敵を幾人も斬り伏せる……といった英雄的なシーンは、実はほとんどありません。
 あと、田中氏は登場人物の容姿についても、髪や眼の色、顔立ちなどに様々な比喩を用いて詳細な描写をする作家なのですが(銀英伝のラインハルトはその好例。過剰に詩的なところがだんだんクセになってきますw)、アルスラーンは「晴れわたった夜空の色の瞳」「ととのった顔立ち」程度です(※田中氏の小説の中ではすごく少ない方です)

 国を取り戻すミッションを課せられた主人公としては、ちょっと影が薄くて頼りない。漫画版序盤も、そういう彼の頼りなさを語るエピソードがオリジナルで盛り込まれました。
 ちなみに、漫画版およびアニメ公式サイトでは「凡庸な王子」と言い切られています。
 そこまで言うことないだろ!

 しかし、一見「凡庸」とも見えるこの性質こそ、実はアルスラーンの最大の美点なのです。

 武ではダリューンに、智ではナルサスに遠く及ばない。自分は未熟で、多くのことを見聞きし、経験を積む必要がある。  自分でそうはっきりわかっているからこそ、アルスラーンは臣下の助言を素直に受け入れます。そうしたアルスラーンの美点を、ナルサスはこう表現しました。

「殿下の心は、乾いた砂が水を吸うように知識と経験を吸収する。しかも、それにご自分の思慮を加えて、より濃いものになさる。何と、大地の豊かさを象徴するような方だ」
(光文社カッパノベルズ版『王都奪還/仮面兵団』p142)


 ちょっ……なんかすごい大絶賛で、打ち込むの恥ずかしいな……w
 こう言ってるナルサスですけど、序盤の頃はアルスラーンを値踏みし、王者にふさわしくないと判断した時は見捨てるつもりだったんですよ。それを思うと、この絶賛ぶり……感涙を禁じ得ませんね……。

 いや当然ですけど!世界よ、これが我らがアルスラーン殿下です!ドヤァ!!

 もうひとつ、序盤からの仲間である女神官ファランギースのアルスラーン評を紹介したいと思います。

「玉座には、それ自身の意思はない。座る者によって、それは正義の椅子にもなるし、悪逆の席にもなる。神ならぬ人間が政事(まつりごと)をおこなう以上、完璧であることもないが、それに近づこうとする努力をおこたれば、誰もとめる者がないままに、王は悪への坂を転げ落ちるであろう。王太子殿下はいつも努力しておられる。そのことが、つかえる者の目には明らかなのだ。かけがえのないお方と思うゆえに、みな喜んでつかえておる」
(カッパノベルズ版『落日悲歌/汗血公路』p320)


 頑張り屋さんの子供はかわいいですからね!(ド意訳)
 主要メンバーの中でも数少ない女性、そして神官であるファランギースのアルスラーンへのまなざしは、優しい姉のようです。
 登場人物それぞれが、違った立場でアルスラーンを見守り、支えている描写があり、アルスラーン陣営はそれ自体がひとつの家族のような雰囲気を持っていて、そこも読んでいて心が和みます。

 大地にまかれた種が芽吹き、大樹となるまでには長い時間がかかるものです。
 アルスラーンも、読む側にとって最初から「こういう人物である」として示されるのではなく、読んでいるうちに植物が育つようにゆっくりと「アルスラーンの人物像」が作られていきます。

 読み始めた当初は同年代だったこともあり、なんというか身近な存在と言う気持ちで見ていましたし、20年経った今また読み返してあのころの気持ちを追体験したり、また別の気持ちで「おお~殿下がんばれ~」とか思ってみたり、色々と感慨深いものがありますね。
 20年経ったので今やもう登場人物のほとんどが年下なんですけども(年季の長い読者にありがちなこと)

 ところでアルスラーンの個性が弱いことについてですが、実は当初このような意図があったそうです。

 最初はね、徹底的に個性を出さずにいこうかとも思ったんですよ。というのもこの人のもともとの立場は「空虚な器」なんです。実際に活躍するのは部下の騎士たちで、その活躍の舞台が王という人の形をとっている、という物語のパターンは、洋の東西を問わずあるんですよ。『アーサー王物語』も『シャルルマーニュ伝説』もそうです。ただまあ、最初そう考えていた、というだけのことで、実際はどんどんと苦労性の苦労人キャラになっていきましたね(笑)。
(角川文庫『アルスラーン戦記読本』p150)


 そう言われてみるとなるほどという感じですが(とはいえ『アーサー王物語』も『シャルルマーニュ伝説』も読んだことないんですが)、苦労性の件は置いといて、結果的にアルスラーンはそれぞれアクの強い人物たちを一つの集団として結びつける存在、「器」というより「水」のようなものなのかも知れません。

 大地とか木とか水とか、お前はいったいアルスラーンをなんだと思ってるんだという感じですが(「大地」は私ではなくナルサスの言ですが)、まあ最終的には「アルスラーンは世界そのもの」ということになるんですかね……(ドヤァ……)


2.弱いからこそ、強く優しい
 世間知らずのひ弱な王子、というのが第三者から見たアルスラーンの印象です。アルスラーン自身も、そうであると自認しており、ダリューンやナルサスらを「自分には過ぎた仲間だ」と思っていたりします。
 しかし、だからといって卑屈にはならないのがアルスラーンの「強さ」です。仲間たちの忠誠に相応しい自分になろうと努力し、襲いかかる試練に立ち向かっていくのです。

 まず序盤。ナルサスを味方に加えたアルスラーンですが、王都を占領したルシタニア軍、および彼らに加担するパルスの万騎長カーラーンの軍勢からも追われる身となりました。

「私がカーラーンで、あたうるかぎりはやく殿下をとらえねばならぬとしたら、まずどこか適当な村を襲って焼きます」

(中略)

「ナルサス、カーラーンがどこの村を襲うかわかるか」
「わかりますとも」
「どうやって?」
「彼らが案内してくれます。後についていけばよろしい。そうなさいますか」
 強くアルスラーンはうなずいた。
(カッパノベルズ版『王都炎上/王子二人』p123~124)


 さきほど少し話題に出した、ナルサスがアルスラーンを値踏みする場面がこれです。追手はアルスラーンを探し出すため、無辜の民を殺戮しておびき出そうとしている、という状況で、アルスラーンは危険を承知で、敵に立ち向かうことを選ぶのです。

 かっこよくないすか!?めっちゃくちゃカッコよくないすか!?(興奮)

 ついこないだ初めて戦場に出たばかりの14歳の少年が!それまでは国で一番安全な王宮に暮らしていた少年が!そして、今や数十万の敵兵にその命を狙われている少年が!!自分一人の身を守るために安全な場所に隠れることではなく、民をわずかでも救うために、敵の刃の前に身を晒すことを選ぶのですよ!!
 これぞ英雄の姿でなくて何であろうか。

 ふたつ目はこちら。ちょっと状況説明が長いですがお付き合いください。
 東方国境の要城ペシャワールの軍と合流したアルスラーン一行は王位継承争いに揺れる隣国シンドゥラの侵攻を受け、その争いに介入することにしました。まあ何やかんやあって(詳しくは原作で!)最終決戦は両陣営から一名ずつ選ばれた戦士が戦う「神前決闘」で決着をつけることになりました。
 アルスラーン達が推す(というほど積極的には味方はしてないのですが)ラジェンドラ王子は、人類最強の騎士ダリューンを指名。もう一方のガーデーヴィ王子は、人間だか野獣だかよくわかんないめっちゃ強いやつ(としか形容できない)を送り込みます。
 人類最強を誇るダリューンも化け物だか野獣だかよくわかんない相手には苦戦。おまけに相手は痛覚を感じないようです。決闘を見守りながらそうつぶやいたラジェンドラに、アルスラーンが激昂します。

 晴れわたった夜空の色の瞳が、アルスラーンの顔のなかで燃えあがった。彼はふいに席から立ちあがると、ラジェンドラをにらみつけた。
「あなたは……あなたはそれを知っていて、ダリューンを神前決闘の代理人に選んだのか。ダリューンにあんな怪物の相手をさせたのか」
「おちつけ、アルスラーンどの」
「おちついてなどいられない!」
 アルスラーンは叫び、剣の柄に手をかけて、ラジェンドラの両眼を見すえた。
「もしダリューンがあの怪物に殺されでもしたら、パルスの神々に誓って、あの怪物と、あなたとの首を、ならべてここの城門にかけてやる。誓ってそうしてやるからな」
 生まれてはじめて、アルスラーンは他人を脅迫した。
(カッパノベルズ版『落日悲歌/汗血公路』p108~109)


 基本的に温和なアルスラーンが怒りに我を忘れる!!フオオオオオオオオオオオ!!(興奮)
 怒りに我を忘れて他人を脅迫する、という行為ではあるものの、その根底にあるのは「大事な仲間を失いたくない」という心情です。いいなあダリューン(※なお死闘中)

 アルスラーンが感情に身をゆだねる場面は少なく、基本的には「上に立つ者」として自分をよく律しています。このあたりは、去年の記事で書いたキングダムの嬴政とよく似ています(好きになったのは勿論アルスラーンの方がずっと先なので、アルスラーンと共通点があるから嬴政を好きになったともいえる)。もちろん、基本的にそういう真面目な性格だから、ということもありますが。
 そんな彼が理性ではなく感情を優先させるのは、目の前で誰かが危機に陥っているとき。その相手は仲間であったり、あるいは無力な民であったりするのですが、他者のために心を痛める優しさは、ときに怒りとなってあらわれるのです。
 かわいい。(表現力の深刻な貧困ぶり)

 これほど仲間を大事に思ってくれるアルスラーンに、やはり答えたくなるというのが人情というもの。
 頼りなく見える王太子の周囲には、いつしか勇猛かつ愉快な、頼もしい仲間たちが集うようになります。
 以下は再びナルサスの言葉からの引用です。アルスラーンを「お人よしの惰弱者」と評し、なぜダリューンやナルサスのように能力的に彼より優れている人物が従うのかわからない、と言った人物に対して、こう返しています。

「アルスラーン殿下の肩に鷹がとまっているのを見たろう」
「見た。それがどうした」
「空を飛ぶ鳥も、永遠に飛びつづけることはできぬ。必ず巣にもどらねばならぬと思うが、どうだ」
(光文社カッパノベルズ版『征馬孤影/風塵乱舞』p129)


 べた褒めですな。お前ダリューンのこと笑えねーからな?


3.ひとりの人間として
 「王子」としてのアルスラーンと、「一人の人間」としてのアルスラーンは、厳密にわけられるものではないのですが、ここでは王子としての立場を離れたアルスラーンの魅力について、三人の人物との関わりから挙げてみたいと思います。

(1)ダリューンと
 アルスラーンの一番最初の仲間として登場するダリューンは、黒衣をまとった長身の騎士。すでに述べたように、作中では最強を誇る人物です。精悍な美男子です。大事なことなのでもう一度言います。美男子です
 名門の出身で王家に忠誠心厚い人物なのですが、アルスラーンにとって初陣にあたる「アトロパテネの戦い」に先立って慎重論を唱えたことで、国王の怒りを買い、万騎長の位を剥奪され、一兵も指揮できぬ身になってしまいました。が、その直後、伯父に「おまえにだけは、アルスラーン殿下の味方をしてさしあげてほしい」と託されます。いわくありげな頼みごとに戸惑いつつ、彼はアルスラーンを救って戦場を脱出し、その後もアルスラーン陣営の第一の戦力として縦横無尽の活躍をします。

 最初の仲間であることからアルスラーンとの関わりも自然と長くなり、すなわちアルスラーンの感化をもっとも受けるのはこの人です。かなり早い段階で「伯父に頼まれたから」ではなく「自分の意志で」アルスラーンに付き従い、その剣となり盾となるのです。
 友人ナルサスがアルスラーンの師となり、ときに弟子を試すようなことも言う(勿論、彼もアルスラーンに忠誠を誓っていますが)のとは対照的に、ダリューンは全面的にアルスラーンを肯定し、護り、支え続けます。殿下のやることなすこと何でも褒めます。褒めまくります。お父さんです。

 しかし、ダリューンのこの揺るぎない信頼こそ、その武勇以上にアルスラーンを救ったのです。

 あることから、自分は王となる資格を持っていないのではないか、と悩むアルスラーンに、ダリューンは「アルスラーン殿下だからこそ私は忠誠を誓うのです」というような意味のことを告げます。(ほんとは台詞を引用したいんですけど、作中屈指の名場面ですので是非読んでください!第3巻にあたる『落日悲歌』です!)
 他の誰でもないダリューンの言葉だからこそ、アルスラーンを救いました。  
 ダリューンはアルスラーンの命だけでなく、心をも護ったのです。

 先にあげた「神前決闘」の場面は、この少し後になります。ダリューンの窮地に、初めて牙をむくアルスラーン。
 もちろん、戦っているのが他の人であってもアルスラーンは心配したでしょうが、ダリューンだからこそのあの反応だったのだと思います。

 ダリューンは、アルスラーン陣営の強さの象徴であると同時に、アルスラーン個人にとって「見失ってはならないもの」の象徴であるのだと、私は思っております。
 いずれにせよ、二人は主従としてだけでなく、それ以上に強い絆で結びついているのです。

(2)エラムと
 エラムは、仲間の中では唯一、アルスラーンより一つ年下の13歳の少年です。両親はナルサスの家に仕える奴隷でしたがその身分から解放され、その恩に報いるためにナルサスに従っています。
 つまり、エラムがアルスラーンの陣に加わるのは「ナルサスがいるから」なので、アルスラーンに対する忠誠は間接的なもの。最初のうち、アルスラーンに対するエラムの態度はわりと素っ気ないものです。
 ですが、王宮暮らしで同年代の友人がいないアルスラーンは、エラムに「友だちになってくれないか」と頼みます。ド直球。(もういったん滅んでいるとはいえ)大国の王太子と、解放されたとはいえ元奴隷の子、身分が違いすぎる、とエラムは拒むわけですが、アルスラーンはめげません。かわいい。

 そもそも序盤の仲間というのは、騎士ダリューンと、元宮廷人だったナルサス以外は、初対面の旅の楽士ギーヴに、初対面の女神官ファランギースで、身分を気にする立場からすれば胡散臭いことこの上ないのですが、彼らを受け入れたアルスラーンは、身分というものにこだわりを持たない人物であることがわかります(えり好みできる状況じゃなかったというのもありますが)。
 それにはアルスラーンの育った環境が起因しているのですが、それを踏まえると、「身分など関係ない、友達が欲しい」というささやかな願いは、さびしさの裏返しでもあります。アルスラーンは、さびしいゆえに優しい少年でもあるのです。

 その後、実は、この二人が友情を深めるうえでの劇的なエピソードはありません。共にナルサスを師として学び、ともに戦う中で、気がついたら一緒に遠乗りに出かけたり(カッパノベルズ版『征馬孤影/風塵乱舞』p280)しています。でもなんか、友達ってそういうふうにできたりするよね……みたいな感があります。かわいいな。
 そして第7巻、ある決意を胸に「魔の山」へ向かうことになったアルスラーン達。並んで馬を走らせながら、エラムの方からアルスラーンに声をかけるシーンがあるんですが、この序盤の素っ気ない態度から考えると、胸に迫るものがあります。

(3)エステルと
 もう一つの出会いは、戦いの中にありました。王都奪還を目指して攻め上る途上で、ルシタニア軍に占拠されていた城を攻め落としたアルスラーン軍。しかし、この戦いは非戦闘員である女性や子供を巻き込んだ、後味の悪い結末を迎えます。
 この戦いの中で捕虜として捕えられたルシタニア軍の騎士見習エステル。アルスラーンより2カ月だけ年長の、男装の少女です。
 ところでルシタニア軍というのは、大雑把に説明すると十字軍みたいなもので、異教徒は悪魔の手先だからぶっころそーぜ!みたいな非常に残虐な集団として描かれ、パルス軍側からは「ルシタニアの蛮族ども」と表現されます。さすがに国家のトップレベルとなると、政治は政治だから宗教とは切り離そうという人々もいるんですが、自国の民衆の(見かたによっては素朴な)信仰心を煽り立てることで征服のエネルギーとしてきたわけです。
 なので、その一人であるエステルも、最初は素直に「異教徒は悪魔の手先」と思い込んでいて、こんなことをアルスラーンに言ったりします。

「異教徒の総大将というものは、二本のねじまがった角がはえていて、口が耳まで裂けて、黒いとがった尻尾があるものだぞ」
(カッパノベルズ版『落日悲歌/汗血公路』p296)


 これに対して「ああ、そう?おとなになったら、角も尻尾もはえてくるかもしれない」と笑うアルスラーンですが、この後二人は言い争いになります。なるんですが、アルスラーンが他人と対等の立場で言い争う、という貴重な場面です。ありがとうエステル!かわいい!
 しかし、この出会いは、エステルに「異教徒は悪魔ではない」という認識を、一方でアルスラーンにも「ルシタニア軍は”顔のない敵”ではない」といった認識をもたらしました。二人とも、「敵」との出会いを通じて、互いの新しい世界を開いたのです。少年少女の柔軟さが眩しい。

 そして、戦いが終わり、すべての幕が下りようとするときに、エステルはある言葉をアルスラーンに告げます。
 いま読み返してみると、切なくも希望にあふれた場面で、読んでいて涙があふれます。


【おわりに】
 というわけで、私の20年に及ぶアルスラーン殿下への愛が何か煮詰まった感じの語りを長々と続けてまいりました。ここまでお読みいただいた方、ありがとうございます。
 去年から荒川弘氏によるコミカライズが始まり、これがまた物凄く面白くて、毎回楽しみにしてるんですが、さらにアニメ化が発表され、立て続けのメディアミックス化に「お、おお……!?」とびっくりしていますが、すごく楽しみです!!

 で、まあすでに有名な作品ではあるんですけど、漫画化・アニメ化情報でアル戦を知った人に、ぜひ原作にも触れてもらいたい!という気持ちで書きました。とはいえ、こんなに長くなると思いませんでした。すみませんでした。
 いくらでも詫びるので、ぜひ原作を一度読んでみていただきたい。
 私も書くにあたって原作を読み返したりしましたが、やっぱりめっちゃ面白かったし、またアルスラーンのことが好きになりました。もう20年経ったのに、これ以上どうすんだ。

 とは言っても「14巻まであるうえに、続きが何年後に出るかもわからない未完の小説なんか怖くて手だせない」という方もいらっしゃろうかと思います。わかります。わかりますとも。
 そういう方も、とりあえず第7巻『王都奪還』まで読んでみてはいかがでしょうか!7巻でいったん区切りだから!実は1巻あたりの分量そんなに多くないし、カッパノベルズ版は角川文庫2巻分を1冊にまとめてあるから、実質3.5巻分だから!
 あとタイトルでバレてるけど奪還すっから!!

コメント

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荒川弘版アルスラーンを読んでから、一気にファンになりました!

漫画があまりに遅いので、原作を大人買いして読みふけりました(^.^)

戦術などが、若干三国志とかぶるよーな気もしますが、ファンタジーとしては読みやすかったです。

私はダリューン推しです‼️

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>たびらぶさんへ

作者の田中さんは中国史ものも多く書いていらっしゃるので、それで三国志と似ているところもあるのでしょうね。
私は原作ファンだったのですが、荒川版ほんとうに面白くて、続きが出るまでがもどかしいです!
ダリューンかっこいいですよね! 私も好きです(*´∀`)
コメントありがとうございました!

>タイトルなし さんへ

コメントありがとうございます!
完結が待ち遠しい反面、ここ2巻ほどの展開は怖くもありますね……(;´∀`)
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